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NiTi合金の伸長や弛緩により冷却する技術——従来の技術より高効率で冷媒不要の冷蔵庫を実現可能に

© Oliver Dietze

弾性熱量効果(Elastocaloric effect)を利用し、ニッケルチタン(NiTi)合金であるニチノールで作られた「人工筋肉」で冷却する世界初の小型冷却機が開発された。この研究は独ザールラント大学と独メカトロニクス・自動化技術センター(Center for Mechatronics and Automation Technology:ZeMA)によるもので、ドイツのハノーバーで2024年4月22〜26日に開催された国際見本市「Hannover Messe 2024」でプロトタイプが展示された。

弾性熱量効果とは、弾性体の形状が急激に変形する際に発熱や吸熱が起こるというものだ。円筒形のプロトタイプに組み込まれている新技術は、ワイヤーに力を加えて引き伸ばしてから力を取り除き、ワイヤーが元の状態になると、その際に空間から熱が取り除かれるという単純な原理に基づいている。

研究チームは、熱を運搬するために、超弾性ニチノール製の形状記憶ワイヤーを利用した。この形状記憶ワイヤーを変形させたり伸ばしたりしても、ワイヤーは元の形状に戻る。筋肉の収縮と同様に、ワイヤーは伸び縮みしたり、ぴんと張ったり緩んだりするが、その理由は、ニチノールには固体における相が2つあり、温度や応力によって原子の相対位置関係が変わることなく互いの相に変化(相変態)できるためだ。このような相変態の間、ワイヤーは熱の吸収と放出をする。

多くのワイヤーを束ねると表面積が大きくなるため、より多くの熱を吸収または放出することになり効果が高まる。この原理はとても単純に見えるかもしれないが、冷却回路を構築するために取り組むべき研究課題は非常に複雑だという。

プロトタイプでは薄さ200μmのニチノール製ワイヤーを束ね、特許取得済みの特製カム駆動により、ワイヤーの束が円筒形の冷却室の周囲を回り続ける構造になっている。ワイヤーの束が円を描くように動く際に、周回軌道のうち半分ではワイヤーに機械的な負荷をかけて引き伸ばし、残りの半分では負荷をかけないようにしている。

周回するワイヤーの束を通過した空気は冷却室に送られ、負荷がかかっていないワイヤーは空気から熱を吸収する。空気は負荷のかかっていないワイヤーの周囲を循環し続け、周回するワイヤーの束は移動して熱を冷却室から運び出す。その後、負荷により引き伸ばされた時にワイヤーは吸収した熱を放出する。この方法で、冷却室は10~12℃程度まで冷やされる。

この弾性熱量によるプロセスは、気候に悪影響を与える冷媒を使用せず、従来技術よりもはるかにエネルギー効率の高い方法で、約20℃の温度差を実現可能にする。弾性熱量材料の効率は、既存のエアコンや冷蔵庫の10倍以上だという。

超弾性ワイヤーを介した熱伝達は、小型のプロトタイプが冷やせる空間よりもはるかに大きな空間から熱を除去できるだけでなく、広い空間への熱供給もできるので暖房用途としても機能する。

弾性熱量を利用するこの技術を、研究チームは、工業用や電気自動車の冷却、さらには家庭用電化製品など幅広い用途に活用したいと考えている。技術的な改善や最適化の取り組みのほか、材料の生産とリサイクルから製品製造までのライフサイクル全体についても研究している。

fabcross for エンジニアより転載)

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